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232. 人工池のそばで倒れる



20220615

今回は気合を入れて書こう。
まずは3段ベッドのアルベルゲを朝、出発。
このときからすでに自分の様子がおかしかった。
胃腸に違和感。
朝食がとれない。このままじゃエネルギー切れになると不安になり、とっておきの日本から持ってきたキャンディをなめるも、それにさえ強い違和感を持ち、なめていられなくなって道端に吐き捨てる。ごめんなさい。






そんな不調の中、道を失う。
途中、高齢の女性がおそらくスペイン語で「ここではない!」とひどい剣幕で元来た道を戻れ!と言い立てる。

一旦は礼を言って戻るが、その場その場で見つける手がかりからすると、どうやっても追い返された道を進みたい。

女性は再び現れた私にまたすごい剣幕と身振り手振りで「戻れ戻れ!」と示すが、私は無視して通り過ぎる。

胃が痛い。胃腸がおかしい。

そして黄色い矢印がない。

不安がこみ上げる。


そんなこんなでやっと見つけたのが、よくわからない林のような場所の「木の幹につけてあった黄色い印」だ。

助かった、と思った。


が、どうにもがまんならない。
歩けなくなり、私は道から外れ、人工池のそばでザックを下ろし、それにしがみつくようにして横になった。



何人かのペリグリーノが通り過ぎた。
私はそれを無視して、自分の痛みが治まるのを脂汗をかきながら、待つ。

やがて声がした。
なぜかなにを言っているのか、不思議とわかった。

男性たちの声で
「あそこに誰かが倒れている!」
「巡礼者か?」
「そのようだ。ホタテ貝が見える!」
「生きている!」
と言っていた。

私は目を閉じ、「私のことはいいからさっさと通り過ぎてくれないかな」と思った。


4人の男性は、私に声をかけた。
そしてアルベルゲがある次の街まで私を送っていく、と言った。
私は遠慮したが、「それはできない」と言い張った。

私の10kg以上あるザックに、トレッキングポールを通し、2人がかりで運ぶ。
私のペースに合わせてゆっくり歩く。

彼らはドイツ人だと言った。
私の荷物が増えたのに、気にしないように彼らは楽しくおしゃべりし、写真を撮りながら進む。

歩き始めてすぐ、「自分は医療関係者だ」と赤十字が印刷された身分証明書のようなカードを見せ、「君に薬をあげたい。信用してほしい。大丈夫だ。飲むか」と言った。
私が安心できる材料を与え、私に判断をさせてくれた。
私は嬉しくなり、好意をうけることにした。

彼は自分のスプーンに液体の薬を入れ、私に差し出した。
濃い焦げ茶色の甘い、でも薬臭いシロップみたいだったような気がする。記憶が曖昧だ。





教会が見えてきた。
街に入った。
アルベルゲはもうすぐだ。







まだ午前10時すぎだったように思う。
そのアルベルゲのオープンは13時だったと記憶している。

4人の男性は、インターホンを押したり、アルベルゲの電話番号を調べて電話をかけてくれたりした。
しかし応答はなかった。

その頃には、私の不調のピークは越えたような気がしていた。

私は彼らに先に行くように言った。

「でもあと3時間もあるんだ」と彼らは言ったが、私は「もう大丈夫」と答えた。

そして彼らの名前や連絡先を聞こうとした。
後日、お礼がしたかったからだ。

しかし彼らはこう言った。

「こういうときに助けるのは当然のことだ。
私たちではなく、他の人にしてあげなさい」

このできごとと言葉は私に深く刺さり、その後の私の生き方にも大きく影響している。