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203. 私はなにをしているのかというと


大きく古い街を抜けてちょっと行ったところのアルベルゲに泊まることにした。

そこにはマリがいた。
私の姿を見ると話しかけてきた。

「私、ここでホスピタレイラとして働くの」

ホスピタレイロというのは、アルベルゲ(巡礼宿)とピルグリーノ(巡礼者)の世話をする人たちのこと。
どういうこと?



このアルベルゲは元は体育館のような、スポーツ施設だったものを改造(?)して運営しているようだ。
大きいのとまだできてそんなに経っていないため、人出が足りないそうだ。

もしそうして働くとなると、夕飯と1泊分のアルベルゲ代が無料になるという。


あの教会で「とにかく前に進むの」と言われた。
でもホスピタレイラ、やってみたい。

自制心と好奇心が交差する。




私はホスピタレイラとして働くことにしてみた。
が、ここで自分のスキルのなさに愕然とする。

英語もへなちょこ。
小さなバルがあって、すぐ上の写真はバルのキャッシャー。
ちょっとしたスナックも売っていた。
巡礼者定食で使われたお皿を拭くのを1枚ずつやっていると、マリは2~3枚のお皿を一度に抱え、器用にぱっぱと拭いていく。

私はほんとに使えないヤツで、これでアルベルゲ代など無料にしてもらってもいいのか、と思った。

次の日もここで働くので、夜は早く寝なくていい。
ホスピタレイロたちが「なにか飲む?」と聞かれ、私は初めて「クラーラ」というビールとレモンスカッシュを混ぜたカクテル(ロング)を飲んでみることにした。


どんどん自分への自信を失っていく。

歩いても歩いても、どんどん抜かされる。
話しかけられても英語もスペイン語もドイツ語もわからない。
会話に入れない。

固くなる心。

嫉妬する黒い感情。

頼るのは自分しかいない。