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189. 英語で話しなさい



悩んだ末、私は逆戻りとなる道を進むことにした。

教会の近くまでいくと、粘土質の土に重機の大きなタイヤのような跡がくっきりと残り、ねばつきぬかるみ凹凸は激しく、歩くのに困難だった。


教会のそばの建物に入ると、入り口付近で本を読んでいた女性が私の姿を見て驚いていた。

その人は夫婦でこのアルベルゲのホスピタレイロをしていた。
希望すれば順番でホスピタレイロが回ってくるという。
本当にホスピタリティーに溢れた人たちだった。


ちなみにマリと私はこの女性にしっかりと怒られた。

「巡礼とは常に先に進むもの。
『いいアルベルゲがある』と聞いて逆走するのはもってのほか」

2人でしおらしく彼女のことばを聞いていた。


それでもこの夫婦は私たちを受け入れてくれた。




マリの学んだ第二外国語はスペイン語だった。
彼女はテキストの一部を持ってきていて、これまででもなんとかスペイン語を話そうと努力していた。

マリが女性にスペイン語で話しかけていた。
私はスペイン語もフランス語もわからないので、「なにか話しているな」という感じだった。
いつもそういう疎外感はあったが、仕方がなかった。
私は異邦人なんだもの。


女性は「ちょっと待って」とマリを止めた。

「彼女はスペイン語がわかるの?」

マリも私もわからないと答えると彼女は言った。

「彼女がわからないのなら、今は英語で話しなさい」




私のカミーノで最高に沁みることだった。
泣きそうになった。

疎外感はいつもあった。

言葉がわからず、人懐っこさもかわいげもない。

あまり人と一緒にいるのは苦手だけど、寂しくないわけじゃない。


さびしかった。
ずっとずっと寂しかった。

家に帰る道も、今自分がどこにいるのかもわからず、孤独だった。



***

思い出したが、到着してすぐに彼女は私の足を洗ってくれた。
かつての巡礼は過酷なため、アルベルゲではホスピタレイロがいたわりの気持ちを込めて丁寧に巡礼者の足を洗っていたそうだ。
その名残で温かなお湯で丁寧に足を洗ってもらい、清潔なタオルで足を拭いてもらうと、さっぱりしたしリラックスもした。