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126. 牛さん、こんにちは / また「ジャポネーゼェェェェェ」と呼ばれ、亡くなった日本人の碑に祈った。

2020/03/13



ジャージー牛のような明るい茶色の牛さんの目はかわいい。


*  *  *  *

しばらくすると雨が降ってきた。
レインジャケットとパンツをとにかく自分ができる一番のスピードで身に着けた。
気分はますますどんより。
カメラは水に濡れるとまずい、と思い、雨のときはほとんど撮っていない。

なので、これから「写真を撮っていない間」のことを書いていくと思う。



写真から言うと、次のタンポポの綿毛の写真を撮った後、レインジャケットなどを装着した。
それからほどなくして雨は止んだが、私は写真を撮っていない。
理由はフランス人女性(まだ二十歳そこそこ)のマリに会ったからだ。

彼女は迷子のような私が気になるのか、そんなに上手でもない英語で私に話かけてきた。
会話に飢えていた私は、つたない英語で話し始めた。


道はぬかるんでいた。


まだピレネー山脈から降りきっていないとき、後ろから
「ジャポネーゼェェェェェ!!」
と叫ぶ声がした。

振り返るとフランス人の迫力あるおばさま3人が「日本じーん!!」と叫んでいたのだ。
これで2回目

何事かと思うと、スペイン巡礼中に亡くなった日本人のモニュメントを通り過ぎた、と教えてくれた。
「日本人ならここは見ておかなくちゃ!!」
ととっても押しつけがましく言われた。
マリとの会話が楽しくて通り過ぎてしまったみたい。

それに、そういう碑がある、というのは聞いてはいたが正確な場所を知らなかった。
気になる人はきちんと場所を確認して行ってね。


私はそのモニュメントに手を合わせた。
というか、神様やイエス様にお祈りするときのように、手を組んだ。
だって十字架っぽかったんだもん。

二十歳前後の男性で、理由はわからないけれど、ここで命を落としたそうだ。
奥歯をぐっと噛む。
私が命を落とさない保証はない。
必死で歩かなくちゃ。
生き抜かなくちゃ。
サバイバルしなくっちゃ。


とにかく、濡れた落ち葉と泥でぐちゃぐちゃの道をまた歩き始めた。